• アウシュビッツ解放から70年

    昨日は、アウシュビッツの強制収容所がソ連軍によって解放された日だった。
    ドイツの新聞をネットで巡ると、いろんなことを書いているが、そのどれもが『アウシュビッツを忘れない』に集約される。

    過去の日記を引っ張り出して、自分がアウシュビッツに行った日の記述を見つけた。
    ちょうど、日本の現代美術展のためにクラコウに来ていたのだった。

    2000年10月5日の日記より

    朝食後7時35分ICでクラコウへ出発。
    2時間30分かけてクラコウへ。
    ワルシャワからの車窓からは霧の平原が続く。

    クラコウの駅は新しくなっていた。
    前にドロータと来たのは6年前かな・・・
    クラコウ観光を後回しにしてアウシュヴィッツへ。

    アウシュヴィッツ、ビルケナウを回る。
    展示されてるものよりも、塔の上からみた収容所の敷地の大きさがリアルだ。
    コルベ神父の亡くなった部屋を見た。
    いろいろと思うことが多すぎてふるえるばかりで、今日は上手く書けそうにない。

    クラコウに戻りコルベ神父のいた教会にも行ってみる。
    聖フランチェスコも訪れたところ。
    古い大学ではコペルニクスやヨハネ・パウロ二世も学んだとのことだ。

    アルトールやドロータと来たポーランド旅行の思い出が、頭の中をかけめぐる。

    明日、オープニング・・・・

     ・・・・なんだか、昔の日記が感慨深いので、もう少し引用してみる・・・・

      2000/10/06

    オープニングはすごい人。老若男女いりみだれてる。
    しかし恥ずかしいので、自分の部屋にはいないことにする。

    帽子をかぶったかわいい娘発見!と、思った瞬間その娘にサインを求められ感激。

    杉戸が頭痛でホテルに帰ったので、自分も2次会参加をやめて戻る。

    もしかしてこの展覧会はポーランドの人にはキッチュに映ったかもしれない。
    でも関係ないや。もうそろそろ日本に帰って制作したい。

      2000/10/07

    朝食後ギャラリー小柳の木俣さんと須田とでアルトシュタットを散歩。
    小山さんと杉戸が帰ってすこし寂しい・・・
    城壁近くの不思議なお店で変な小物を発見。帰るまでに買おう。

    ひとりで歩いて美術館まで行く。約50分。
    途中の店でマトリョーシュカ2体とコマ4個を買う。
    街は歩かなければ絶対わからない。小路にはいると子どもたちが元気に遊んでる。

    今日は宮島+笠原+村上レクチャー。
    宮島さんはヴィデオを多用しながら英語で話す。ヴィデオがかっこいい。
    笠原さんの話はアメリカでもまれて洗練されているし、英語がスゲェ~上手い。
    村上さん、いつもより緊張している。しかしわかりやすく説明していく。
    3人の話はそれそれにしっかりしていて学ぶところが多い。

    夜、ツバメで日本食。カツ丼と茄子田楽・・・美味いが量が多い。

    ホテルに戻ってコーラを飲んで即寝。

      2000/10/08

    ワルシャワ最後の朝。ミューズリとフルーツでいつもの朝食。
    村上さんとオールドタウンを散歩。
    昨日発見したあやしい土産物屋で、十字架を5個も買ってしまう。
    第三帝国の10ペニヒ硬貨も1ズロチで買う。
    ズロチはポーランドのお金の単位だけど、小山さんはズベータって言ってたなぁ。
    村上さんもおみやげをかなり購入。

    路上に店を出してるおじさんからサンタクロースのマトリョーシカをさらに購入。

    ホテルから村上さん+笠原さんとタクシーで空港へ。
    コーヒー+ケーキでズロチを使い切る。
    笠原さんがゲートへ消え、村上さんが消え、ひとりぼっちになる。
    16時45分発ミュンヘン行きを待ちつつ、タバコをふかし今回の旅を思う。
    展覧会よりも、強制収容所跡を見れたことが一番の収穫かもしれない。

    18時過ぎミュンヘン到着。’83年以来のミュンヘンだ。
    ミヒャエルとアンドレアスが迎えに来てくれている。
    夕暮れの中市内へ向かう。
    彼らのニューギャラリーはアルテピナコテークのそばだ。
    中庭に面していて、広いガラスのドアがある。
    改装はほとんど終わっているけど、オープンは11月末とのこと。

    ギャラリーでシュナップスをぐっと飲み、街中へ!
    『庄屋』でカツ丼・・・このところ日本料理はいつもカツ丼だな・・・
    そしてホフブロイハウスへ行く。
    気分は観光客。一番量の少ない白ビールをたのむが、それでも0.5リットル。
    初めて来たけど、やっぱし観光名所はそれなりにいいもんだ、と思う。
    しばし楽隊の演奏と客たちの合唱を楽しむ・・・がすぐに飽きた・・・・

    アンドレアスの家に行って寝る。

      2000/10/09

    朝9時起床。コーヒーとパンを食べて街へ出る。
    ミュンヘンはワルシャワより寒い。
    古着屋でコートを買う(70マルク)・・・んで、あったか~~~~い。
    市庁舎前の広場で、仕掛け時計を見る。
    鐘が鳴り響き、カリオンの旋律とともに人形が動き出した。

    HAUS DER KUNST に行き展覧会を観る。
    『Die Dinge』と題された展覧会はよかった。というか、会場構成が横浜に向けて参考になる。
    なんか最近はいつも会場構成をよく観察していると思う。積極的になっている。
    そういえばプレッシャーもなくなってきた。好きなことをしてるんだから当然と言えば当然だけど。
    ソフィー・カル展は・・・僕にはイマイチ。
    しかしこの建物、17年前に来て、その時はキルヒナー展を観て感動したな。
    ミュンヘンオリンピック後の選手村を改造したユースホステルに泊まった・・・
    工科大学の学食で昼飯食った・・・ヨーロッパでマックに初めて入ったのもこの街だ。

    アカデミーにも行ってみるが、誰も知ってる人がいないので校内をぶらぶらしただけで終わる。
    学校の中を歩いていると、あのドイツに来たばかりの不安な気持ちを思い出す。
    基本的に人間自身はそんなに変わる事はないんだ。
    どんなにキャリアを積もうとも変わらないものを持っていたい。
    最近急に、作品だけではなく僕個人に対する否定や肯定を聞く事がある。
    現実に物を創っていくことの厳しさも知らず、簡単に否定したりする奴らに言ってやりたい。
    「世界に向けて書いたことがあるか?」「自分が大きな世界の一員だと考えたことがあるか?」
    ああ、また嫌な事を思い出してしまう。

    僕は思う。知らないうちにここに立っていただけだ。
    目的や野望があったわけじゃない。
    あいつらの勉強不足な頭にはうんざりするぜ!

    ギャラリーに戻って壁塗りの手伝い。
    そして晩飯は『のみや』!日本食!巻き寿司と焼き鳥の店。
    「奈良さん!」と声をかけられ見れば、なんとナカジ!
    今までドレスデンに居て、今学期からミュンヘンのアカデミーに通うとのこと。
    びっくりぎょうてんの介。
    腹一杯食ってアンドレアスのとこに戻り爆睡・・・・・

      2000/10/10

    今日は1日中ギャラリーの地下のパテ盛り+壁塗り。
    ここはヴィデオ専用の部屋にする予定だ。
    天井を塗るのがちょいときついが、なんとか夜8時頃には塗り終わる。
    久々の完全労働日。

    一階がメインギャラリーで、地下が映像専門のセカンドギャラリーと倉庫。
    11月末にオープン。

    ミヒャエルの家でシャワーを浴びて(髪の毛も服もペンキで真っ白だった)また『のみや』へ。
    今日はアンドレアスの友だちがバイトで働いてる。
    焼き鳥メニューの中の『たこ』が、けっこう美味い。
    ざる蕎麦も食う。ここんとこずっと日本食だ・・・・が、飽きない。

      2000/10/11

    ドイツ奈良本のミーティングのためミヒャエルとニュールンベルクへ。
    車中シュテファンのテキストを添削するが、ドイツ語の辞書を持ってないので慣用句や難しい単語にかなり苦労する。

    ミーティングは無事終了。
    本の中のどこにテキストを入れるかだいたい決まる。
    日独英のトリリンガルなのが難しい。
    日本語のレイアウトだけは日本でやらなくちゃいかんな。
    しかしデイジーを入れ忘れているのが発覚。
    明日スライド送らなくちゃ。

    帰りの車中、自分のバックグラウンドをミヒャエルとお互い語る。
    家族や育った環境のこと。
    やっぱしドイツ語は僕にとって第二の言語だと思う。
    話してるとどんどん単語や言いまわしを思い出す。
    ギャラリー・ミヒャエル・ツィンクは僕とともに始まったようなものだ。
    僕とギャラリーが歩く道程は同じ。生命共同体だ。
    村上さんが小山さんを生命共同体と言ってたのもうなずける。

    ミュンヘンの駅からギャラリーまで地下鉄を使わずに二人で歩く。
    僕はギャラリストを裏切らないし、彼も僕を裏切らない。
    そんなことを今更ながら痛感して胸が熱くなる・・・・

    真夜中のギャラリーでウォッカで乾杯。
    アンドレアスのとこに戻って寝る。

      2000/10/12

    昨日クラウディアのおばあさんが作ったケーキとコーヒーで朝食。
    クラウディア、すげぇめんこい・・・・生物学科の1年生。

    アンドレアスとギャラリーヘ行くと、ボルドーに出した絵が帰ってきていた。
    久しぶりに見たら、絵を描いたケルンの部屋を思い出す。
    午後からアルテ・ピナコテークとノイエ・ピナコテークに行く。
    14~15世紀のイタリア絵画はやっぱし良い。
    ジョットやフラ・アンジェリコに感動する。
    ルネッサンス以前の絵画が好きだ。

    ゆっくりと街の散歩。
    人口170万(多分)、面白そうな店もけっこうある。
    2、3のギャラリーを覗く。
    カレン・キリムニクをやってた、シュプルート&メージャースのスペースがとてもきれい。

    ドイツ奈良本のタイトルを『Lulluby Supermarket』にすることにした。
    サンタモニカ美術館での個展と同じタイトルだ。

    飛行機は明日朝11時発。
    アンドレアスはレーゲンスブルクに帰ったし、クラウディアもどっか行くと行ってたし、明日起きれるか心配になってたら・・・・目覚し時計を発見!
    なんとか起きれそうだ。

     2000/10/13

    誰もいない家の中、8時前に目覚める。
    シャワーを浴びてコーラを飲みつつパッキング。
    鍵をアンドレアスの部屋に置いてドアを閉める。

    地下鉄と電車を乗り継いで飛行場まで40分。
    11時ミュンヘン発フランクフルト行き。

    フランクフルトで成田行きに乗り換える。
    日本には明日朝7時30分着の予定。

    時代精神とダンスはしない。
    時代精神を越えて向こう側にいかなきゃ。