• それは真夜中にやって来る ‐真夜中のThinker‐

    何かを集中して考えようとすると、さっきまでの時間からスッとタイムワープするような感じで時計の無い世界に移動することがある。そんな時間が凍結された中にいて、どこかからやって来るインスピレーションのキャッチボールが始まる。

    空からやって来るボールを、空へ投げ返す。
    空からやって来るボールを、自分の中へ投げ返す。
    自分の中からやって来るボールを、自分の中に投げ返す。
    自分の中からやって来るボールを、宇宙へ投げ返す。

    どっちにしろ、そのキャッチボールは、他に人がいるわけではなく、自分と自分の会話だったり、宇宙との対話なのだ。鏡の中の自分を見つめるようにして、自分とその周りに無限に広がる世界が意識されていく。

    狐が歩き回るような田舎に住んでいて、自分にとって永遠に感じられるその時間、外は真っ暗で、時に月が輝き、星が瞬いている。いつの間にかステレオからの爆音ロックはどこかに吸い込まれていき、生き物たちの話声や、雨風の音しか聴こえてこない。

    インスピレーションをキャッチするために、僕は想像の中でひとり両手を広げ、アンテナの感度を上げていく。その時の圧倒的な孤独感は快感となって自分と夜を同化させてくれる。その感覚が消えないうちに筆を取って、画面の中の自分と会話するのだ。

    そうした中から生まれた絵やドローイングと彫刻、そして趣味のようにワクワクしながら作った陶器の作品を今回このニューヨークという街で展示します。オーディエンスへ僕のインスピレーションが届きますように。

    「Thinker」展に寄せて
    Pace Gallery, NY 2017年