• 『熱風(GHIBLI)』2019年7月号から2021年3月号 表紙に掲載した作品について


    2019年4月号 /《FROM THE BOMB SHELTER》2017
    この絵は長崎への原爆投下直後に撮られた演技写真が元になっているが、
    被爆者がモデルであり、そこには何かしらの真実があるのだと思った。

    2019年5月号 /《THIS MACHINE KILLS FASCISTS》2017
    多くのプロテストソングを歌った故ウッディ ガスリー。
    彼のギターに書かれていたフレーズから浮かんだ絵。

    2019年6月号 /《HOME》2017
    広島の原爆記録映画を観ながら描いたボールペン画が元になっている。

    2019年7月号 /《Stop the Bombs》2019
    今、この瞬間も世界のどこかでは爆弾が炸裂している。
    その中で新しい命も生まれているはずだ。
    「STOP THE BOMBS!」心からそう思う。

    2019年8月号 /《NO WAR》2019
    自分もそうだが、戦争の無い時代に育った人々は、メディアで接する戦争しか知らない。
    それでも、戦争の無い世界に暮らす幸せを感じて感謝することができる。

    2019年9月号 /《PEACE GIRL》2019
    おそらく20世紀でもっとも有名な独裁者の上に立つ少女はなぜちょっと意地悪な顔なのだろうか。
    平和の成り立ちは考えるほどに複雑な気がしてくる。

    2019年10月号 /《SWEET HOME GATE》2019
    楽しかった遠足から戻った子供。
    遠足は楽しかったけれども、やっぱり家は一番好きな帰る楊所。
    大きくなって家を離れても、帰省して家が見えた時、その気持ちは変わらないといいな~。

    2019年11月号 /《Alone in the Wind》2019
    戦争と平和、人権や自由について「その答えは風に吹かれている」と、21歳のボブディランは歌っていた。それから60年近くたった今も、世界や社会を見渡せば「Blowin'in the Wind」の歌詞は色褪せないで語りかけてくる。
    自分自身も風に吹かれているのだという無力感と対峙しながら絵の中の人は立っている。

    2019年12月号 /《NO NO NO》2019
    遠い昔、反抗期と呼ばれたことがあったが、いい歳をした大人になってからも何かにつけて反抗している気がする。世の中に在る理不尽さに対して大声で叫びたくなる。自分の無力さに泣きたくなることもある。それでも「NO」と叫ぶ力を与えてくれるものは、自分の心の中に確かに在るのだ。

    2020年1月号 /《Girl Left Behind the Night》2019
    もう10年以上も証明写真のような構図の絵を描き紬けている。紙に鉛筆なんかで描くものだと自由にいろんなものが描けるのだけれど、キャンバスに絵の具で描くものはずっと正面顔だ。正面からこちらを見据えたような顔は、いろんなボーズのできる全身像に比べると構図のバリエーションも無くて、正直言うとシリーズで描き続けるのが難しい。それでも修行のように続けてきている。自分でもなぜなのかわからないけれど、やっぱり修行なんだと思う(でも、何の修行なんだろう?)。

    2020年2月号 /《Peace of Mind》2019
    静かに眼をつぶっていると安らかに見える。正直に言うと、眼を開いているよりもつぶっている顔を描くのは多少楽な気がするが、それは制作する自分の心が静かに眼をつぶっている心境に似ているからだと思う。自分の場合だけど、眼を開けるといろいろなものが見えすぎて、心の眼で見れなくなってしまうのだ。

    2020年3月号 /《In the Box》2019
    箱に入っている子供の絵は20年ほど前にはよく描いた。自分はその頃ドイツに住んでいて、彼の地の美術学校を修了したばかりだった。異国にいて何かにつけて身動きがとりにくい状況の表れだったのかもしれない。しかし、なぜまた箱の中なのか? それは自分にもわからないが、無心に筆を動かしていたらこんな絵になってしまった。片手は何かを指さしているようだが、それが何かは今の自分には残念ながらわからない。

    2020年4月号 /《Invisible Vision》2019
    表そうとするものは以前から変わってはいないのだろうけど、ふと描き方に変化が起こることがある。それの始まりはヒントのようなもので、時に答えらしきものに繋がることもあるが、 ヒントだけが続くこともある。今回の絵は次作へのヒントなのだろうが、答えは遠い気がしている......。

    2020年5月号 /《TOMORROW'S FAR AWAY》2020
    「TOMORROW'S FAR AWAY/明日は遠い」ふと浮かんだフレーズは、いつかどこかで聴いた歌の中にあることが多い。まず何か画像が浮かんで、それを描こうとする瞬間に、過去に出会ったであろうそういうフレーズが降って来る。その逆もあるが、自分が頭や心の中に蓄えてきた言葉たちは、絵に付き添うようにやって来る。遠い明日というのは、光り輝く明日に違いない。それがいくら遠い所にあったとしても、歩み続ければ近づいて来るに違いない。

    2020年6月号 /《Little Thinker in Silence》2016
    気が付けば10年以上も陶土を使ってセラミック作品を作っている。まずはロクロを習い、壺や食器を作り粘土の特性を知ろうとした。そのうちに具象的なオブジェも作るようになり現在に至っているが、ある時を境にセラミックをコーティングする釉薬を使わなくなった。釉薬をかけて焼成することで、焼き物は驚くほどの変化をとげるのだが、その偶然の力を味方にすることを拒否するようになった。釉薬を知る以前の太古の土器や土偶が持つような根源的な力に憧れ、いわゆる素焼きで完成させるようになった。この実物大ほどの頭部は、その初期に作られた。焼く前とその後に劇的な違いはなかった。僕はこの頭部に「Little Thinker in Silence/沈思黙考する小さな人」と名付けた。

    2020年7月号 /《Little Thinker in the Garden》2016
    先月号の「Little Thinker in Silence/沈思黙考する小さな人」と同時期に作ったセラミック作品で「Little Thinker in the Garden/庭園で思考する小さな人」というタイトルを付けた。植物に囲まれた中で長い時間思考していたら、頭部の先端から植物のように新芽が伸びてくる気がした。植物は地上だけではなく、根でも思考しているかもしれないので、また違う形で作れたらいいな、と思う。って、どんな形なんだろう?(笑)

    2020年8月号 /《Girl with Drum Sticks》2019
    夏の終わりに北海道の森の中で開催される、音楽とアートの小さなお祭りを手伝っている。貸し出しに使うテントなどを購入した時に、段ボールの外箱がゴミとして出るのだが、単純にリサイクルには回さない。自分は箱を分解して、切ったり繋げたりして絵を描いている。お祭りに集う音楽好きの子を描いてみた。この絵の子は、僕より大きいです!(笑)

    2020年9月号 /《Girl with Guitar》2019
    先月号の表紙「ドラムスティックを持つ子」と対になっている「ギターの子」。使う色をセーブして、鉛筆やペンで一気に描くような素朴な強さをイメージしていたんだと思う。いつもあまり考えずにやってみて、出来てから理由を探してみたりするが、あんまりいい感じの理由は思いつかない。でも「理由なんていらない!」と、絵が言っている。(と、いうことにしておこう......笑)

    2020年10月号 /《Light Haze Days / Study》2020
    なんかいつもとは違う感じの絵になってしまった……というか、何か新しいことをしようとしたわけではないのだけれど、新型肺炎の世界的な流行の中で自分の心に生まれた不安が表出しているのだろう。完成というゴールや答えがあるわけでもなく、あくまでも未完を意識して筆を置いた。色の置き方や筆致はひと昔前の近代絵画のように感じる。
    題名は「Light Haze Days(ちょっともやもやした日々)」としたが、後で「Study(習作)」を付け加えた。

    2020年11月号 /《Through the Break in the Rain》2020
    今年の梅雨は異常に長かった。その梅雨の間に描いていた絵は、なかなかうまく終わらせることが出来ずにいて悶々としていたのだけれど、ある時、雨が止んで雲の隙間から陽が差したような感じで、ふっと完成した。自分にはいつも通りの絵のようでいて、何か違うように思えるのだけれど、それは一瞬の晴れ間が導いてくれたからじゃないだろうか。自分の技術にはアベレージがあるはずだけれど、気持ちはいつも偶然に左右されているなぁ。

    2020年12月号 /《徒手空拳》2020
    徒手空拳の反対話は完全武装だ。つまり徒手空拳は、何も持たずに素手で何かに立ち向かうことを意味している。一見して中国からの外来熟語のような徒手空拳は実は日本語らしく、中国の人から「赤手空拳のことだね」と言われた。調べてみると赤手空拳は自ら望んで素手で立ち向かうことで、徒手空拳は頼る人や武器が無く、そういう状態を受け入れて戦うことのようだ。でも、自分にはどっちの言葉でもよくて、要は、自らが望む「当たって砕けろ!」なのだ。

    2021年1月号 /《Banging the Drum》2020
    「banging the drum」はbloodthirsty butchersの曲で、2005年にリリースされた同名のアルバムに収められている。もちろん大好きな曲だ。「悲嗚上げて惹きつける 世界をじっと見つめてる 逆さにしても変わらない おかしなことを眺めてる ひょうひょうと流れる展開 めまいとともに眩んでる しっかりと目に焼きつける ただちに今ドラムを叩くんだ」

    2021年2月号 /《Dead Flower 2020 Remastered》2020
    1994年、34オの時に描いた同名の絵がある。描かれているものも同じだ。僕はその絵をとても気に入っていて、回顧展的な展示があると借りようと試みるのだが、持ち主がなかなか貸してくれない。そこで音楽のリマスター盤のように、今の自分で再度マスタリングして1枚描いてみようと思ったのだ。94年当時の自分は悩みながらも一気に描いたが、今の自分は以前気付かなかった音の漏れのようなものや不要なノイズ、そして組み立ての甘さを修正して、構築性の強い画面に仕上げたつもりだ。サイズもひと回り大きくした。さて、昔歌っていた歌は、この歳でどう歌えたのだろう?

    2021年3月号 /《In the Pink Water》2021
    何枚かの古い布が縫い合わされたものに描いた絵があった。その絵は納得のいく出来ではなかったので、適当な木枠を探して貼りなおし、白で下塗りをして新しい絵を描くことにした。すでに古い布の素材感が強かったので、絵自体はサラっと描いたっもりだ。描かれている子は、最初は両脚で立っていたのだけれども、それをピンクで塗りつぶし、ピンク色の川の中で佇んでいるようにした。普段はピンクのような強い色を大きな面積では使わないので、そんな自分にちょっと驚いた。この絵が完成するまで、ずっと石垣島のG.Yokoさんの手作りCDを聴いていたので、大胆なピンク色は南国からやって来たのだと思う。


    『熱風(GHIBLI)』(スタジオジブリ 2021年3月号 第19巻第3号(通巻219号))