• Interview for 中央通訊社(Central News Agency:CNA) (Taiwan)

    Q-1. 今回の展覧会は奈良さんにとって初の台湾での個展であり、新作《Miss Moonlight》などの海外初展示となります。台湾で個展を開くに至ったきっかけと今の気持ちを教えて下さい。

    A. 新型肺炎(コロナウィルス)が流行し始めた去年の春、マスク不足の日本へ台湾から支援がありました。その際にTwitterで感謝の気持ちを蔡総統に述べ、猫好きの自分は彼女の愛猫クッキーにも触れました。そして、コロナが収まったら台湾で個展をしたいとも述べました。そこからすべてが始まりました。
    今年は東日本大震災から10年目ということで、今回の個展の話が持ち上がりました。東日本大震災にも多大な支援をして頂いた台湾に、自分も個人的に何かしらのお礼をしたいと思っていたので、この個展はまたとない機会であると思いました。しかし、自分の代表作はロサンゼルスでの個展に出品されていて、作品がありませんでした・・・ただ一点の作品を除いては。それが《Miss Moonlight》でした。ロサンゼルス個展へ作品を送った後に描かれたものだったからです。しかも、《Miss Moonlight》は東日本大震災への自分なりの答えとなる絵でもあったので、その一点だけでも台湾で見せたいと思ったのでした。

    Q-2. 今回の個展は東日本大震災10年に際し、台湾に感謝を伝える日本台湾交流協会の「日台友情」事業の一つとして開催されます。奈良さんは青森県出身とのことですが、こういった背景も今回の個展開催に関係しているのでしょうか。

    A. 自分は、自分の出身地や「日台友情」を考えることはなかったです。そういうこと以上に、単純に自分の友だちが住む国、日本が困難にある時に支援してくれた国に対して、自分なりの恩返しがしたいと思っただけです。

    Q-3. 台湾と日本の関係、そして深い心の結び付きについて、奈良さんはどのように形容しますか。どのように捉えているか教えて下さい。

    A. 台湾の歴史上、日本が統治した時代は台湾の近代化に大きく関わっています。個人的には当時の統治については一長一短あると思っていますが、学問でも流行でも当時の最新の情報は日本からのものだったと思います。そのようなものを日本語で吸収してもらえたことは、世界諸国の中で台湾がとりわけ親日的である理由になっていると思います。自分は当時の皇民化政策をよしとはしませんが、例えば八田与一による烏山頭ダム建設後の農業改革や樟脳や砂糖精製の近代的な産業化など、結果的に光復後の228事件をくぐり抜けた日本語でまなんだ世代が台湾の経済的な成長を支えたと思っています。

    Q-4. 今回の個展の展示において、なにか台湾を意識して取り入れたアイデアはありますか。伝えたいテーマや台湾の人に見てもらいたいポイントがあれば教えて下さい。

    A. 《Miss Moonlight》は自分の中でも傑作であるという自負がありますが、今回このような個展と言う機会を与えてもらい、その絵に匹敵するような絵をもう一枚描かなければと強く思いました。その結果、《Hazy Humid Day》が生まれました。何度も訪れた台湾の熱帯的な気候を想いながら描いた絵になりました。《Miss Moonlight》と対を成す絵になったと思います。

    Q-5. コロナ下において台湾にいらっしゃってくださったことに、感謝を申し上げます。2週間の隔離に加え、その後7日間の自主健康管理が必要になりますが、それにもかかわらずご自身で展示作業を行うことにこだわる理由を教えて下さい。

    A. まず、隔離は全く苦になりませんでした。最後の日には、もう数日ひとりにしてほしいと願ったくらいです。事実、隔離開けの日は寝坊して1時間以上みんなを待たせてしまいました。隔離がある無しに関わらず、展示構成は自分の手で行うのが自分の常です。それは、展示風景を見てもらえればわかると思います。

    Q-6. 台湾での隔離生活に関して、特に印象的だったことはありますか。食事は口に合いますか。

    A. もともと食にはこだわらない人間なので、おいしくいただきました。運動不足になるだろうということで、グルテンフリーの食事にしてもらいましたが、同じメニューがないと思ったくらい毎回楽しめました。

    Q-7. 隔離中は何をなさっているのでしょうか。

    A. 本を読んだり、ネットで映画を観たり、絵を描いたりしていました。

    Q-8. 東日本大震災からまもなく10年が経ちます。当時受けたショックは、現在では少しは落ち着いてきましたでしょうか。震災によって作風が大きな影響を受けたようにお見受けしますが、当時の心境の移り変わりについて教えて下さい。

    A. 父の死があり、その後震災がありました。人々の死を通じて喪失ということの無常を感じることが出来ました。それまでの自分は、楽観的に生きていたと思います。絵を描くことを無条件に楽しんで、悩むことも楽しみにしていました。しかし、震災以降は笑いや楽しみよりも、どれだけ笑わずに真剣に向き合えるか、のような心境です。

    Q-9. 作品に登場する女の子の目つきは、怒りや不満を抱え、斜に構えた様子だったものが、次第にやさしい目つきに変わり、目の中には観客を直視する光が浮かぶようになっています。新作の《Miss Moonlight》では目を瞑っています。このように変化した理由を教えて下さい。奈良さんはかつて、作品は心の中の感情に駆り立てられて表現されるものといった内容の話をされていましたが、今回の新作もそうなのでしょうか。現在のご自身はお好きですか。

    A. 今回の新作《Hazy Humid Day》は、台湾に対する自分の想いが詰まっていると思います。人は日台それぞれでしょうが、変わることのない自然、気候を感覚的に受け止めて描いた気がします。描いている時は無心なので。現在の自分は、以前よりも自分の嫌なところ弱いところを冷静に受け止めていて、そういうネガティブなところも含めて、人間としてより自分が好きになっているようです。

    Q-10. ユリイカのムック「奈良美智の世界」の中で、アーティストとしてのご自身が形成されたのは、普通の人よりも長い学生生活のためだとつづられているのを拝見しました。学生時代は奈良さんにどのような影響を与えたのでしょうか。芸術関連の学科を専攻する学生へのメッセージを下さい。

    A. 自分が学生の時は先輩や作家へアドバイスを求めたことがありません。学生に対して言えることは、ショートカットするように簡単にアドバイスを求めず、自分や仲間たちととことん考えるべし!です。また、美術と関係の無いような事にどれだけ触れられるかが、結局はその人の専門をより深くさせると思っています。

    Q-11. アーティストとして長いキャリアを持つ奈良さんにとって、たゆまないインスピレーションの源と原動力は何ですか。奈良さんにとって絵を描く意味や創作を行う意味は何でしょうか。

    A. たぶん、そのようなことを考えたことが無い、ということだと思います。

    Q-12. 奈良さんの作品を通じて自分を見つめ直し、癒しを得る人は少なくありません。不安定で急激に変動する2021年において、個展に来場する台湾の観客に伝えたいメッセージはありますか。

    A. 自分自身からは何もありません。自分が一生懸命に描いた絵が、求める人にはその人の心の鏡としてメッセージを与えると思います。伝わらない人には伝わらないものこそが、伝わる人にこそ伝わるものです。

    Q-13. 昨年、蔡総統から誕生日の祝福メッセージを受け取った際の気持ちを教えて下さい。これらのフレンドリーなやり取りについてどのように捉えていますか。

    A. ただただ驚き嬉しかったです。歴代の総統の中で蔡英文さんは自分の最もリスペクトする総統です。2012年(かな?)の選挙に敗れた時のスピーチがとても素晴らしく印象に残っています。

    Q-14. 特に注目している台湾の芸術家はいますか。

    A. 何人かいますが、これからもっと増えていくと思います。

    Q-15. 奈良さんは台湾がお好きとのことで、過去にも10回ほど訪台されているそうですが、どういったきっかけで台湾に魅了されるようになったのでしょう。台湾のどういった点が好きですか。

    A. 自分の台湾人の友人たちがとても素晴らしいからです。中には20数年来の友人もいますが、自分がさほど知られていない頃からの理解者は、共に成長してきたような同志感があります。どんなに風光明媚なところでも、結局は人なんだなと思います。

    Q-16. 過去の訪問で印象深かった都市や出来事などがあれば教えて下さい。

    A. タロコ渓谷の奥で、たまたま芋を植えていたタロコ族の方の畑で一緒に芋を植えたことです。