• 6月15日

    梅雨前線が北関東に達した夜、僕はその北関東から東京を越え東名高速を走った。それはフロントガラスを打ち続ける雨に向かって走っているようなものだった。雨粒の軍隊は次から次と終わり無くやってくるようで、ワイパーが追いつかないといったふうだ。すべての車がのろのろと徐行運転で、高速道路なのにスローモーションの世界。しかしながら本来の僕は、雨というものがそんなに嫌いじゃない。普段、雨の降る日は本を読んだり、昔集めたレコードをとりとめもなく聴いていたりする。そして窓ごしに、雨風景を眺めたりしながら何を想うでもなくリラックスしているのだ。

    それでも豪雨というのは別物だ。スタジオのトタン屋根はうるさく騒ぎ出し、必然的に僕はステレオの音量を上げて激しく絵を描いたり、ちょこまかと掃除したりする。今、車中はまさにそんな状態で、叩きつける雨に負けじとカーステレオは大音量だ。ただし絵は描けない。ちょっとしたドライブなら、そのフラストレーションが、スタジオに戻った時にがんがん描く力になるのだけど、今向かっているのは岐阜県の多治見なので、着いた頃には疲れ果てて、何をする気力もなくなっているだろう。

    愛知県に入るあたりから雨足は弱まって、多治見に着いた時にはすっかり止んでいた。深夜2時近かったけど、旧知の森北邸に転がり込んだ。彼はいつものようにソファーベットに寝床をしつらえてくれていて、僕が着くまで起きていてくれたようだった。電気を消して訪れる気持のいい静寂の中、まだ車の振動に震えているような体をなだめるように、僕は布団の中で伸びをしたりしながら、お互いの近状報告を語らいながら眠りについた。