• BT用 原稿1

    From Mighty Oaks / Ray Thomas (1975)

    ピンク・フロイドと並ぶプログレッシブ・ロックのパイオニアであるムーディ・ブルース(ジミー・ペイジは「真のプログレバンドは、ピンク・フロイドとムーディ・ブルースだけだ」と言った)でボーカルとフルートを担当していたレイ・トーマスの初めてのソロアルバム。発表当時は、バンドが活動停止状態だったため、彼らの音に飢えたファンからは絶大な支持をもって受け入られた。

    木々の描き方や空気遠近法のためか、古典絵画のような風景画(あるいは土産物屋さんにあるような油絵画?)にも見えるけれど、ここに描かれた世界観は魅力的だ。犬と共に水辺で船遊びに興じる子どもと、傍らで釣りをしながら本を読むヒッピー風のお父さん。英国特有の湿気を含んだ空気の中、遠くにはボンヤリとお城が見えている。ジャケットを開くと、実際に水辺でリラックスしているそんなレイ・トーマス親子の写真があるので、この絵は彼らを描いたものに違いない。From Mighty Oaks(邦題・樫の木のファンタジー)というアルバム・タイトルからすると、絵の中に見える大きな木々は樫の木だろう。

    当時の僕は、この絵にどこかしらポップなイメージを感じていた。古臭そうな(でも、とても明るい)絵の中に、現代の服を着た人が描かれていることが新鮮だった。子どもの赤い服や、黄昏ているようなお父さんの服装の色合いに親近感があった。この絵を描いたPhil Traversは、以前からムーディ・ブルースのアルバム・ジャケットに絵を提供していたのだけれども、プログレッシブ・ロックという名のもとに描かれた絵とは違って、この絵には日常的な安心感が漂っていたのだ。Philは今も制作を続けているようで、このジャケットのような英国の田園風景を描いている。

    PS.絵を勉強するようになって、Philにはいろいろな画家からの引用が見られることも分かったけれども、その話はまたいつか・・・