• Interview for Vogue Taiwan /2021年4月NO. 295 (Taiwan)


    Q-1. この度台湾に特展を行うことになって、とても嬉しいです。まず台湾のことをどう思いますか?そして、今回の展示会にどんな構成や展示内容についてお伺いできますでしょうか。また、展示会によって伝えたいことを教えてください。

    A. 初めて台湾を訪れたのは2004年です。当代美術館でのグレープ展でしたが、台北市内の廃材置き場から廃材を入手して小屋を作りました。その時、担当学芸員や美術館の対応がとても気持ちよく、展示作業が終わった時には友だちのようになっていました。実際、その後もプライベートで何度も会うようになりました。その時は学生ボランティアも頼んでもらい、大きな作品の組み立てを手伝ってもらいましたが、自分も学生に戻ったようで楽しかったです。その時の記憶が、台湾を好きにさせたのだと思っています。台湾の自然や名所旧跡に興味を持つのはもう少し後ですから。

    Q-2. 2020-2021年に新型コロナにおける世界中皆のライフスタイルが大きく変わりましたよね。その日々に、昨年中どんな音楽をよく聴きますか?
    そして、世の中の雰囲気についてどう思いますか?新しい視点や制作のプランを生み出すことがありますか?

    A. 20世紀末あたりから交通移動は安く便利になり、インターネットの発達も伴って世の中はグローバル化していきました。都市も拡大を続けて巨大化していきます。その中で、グローバル化に対して反グローバル化を唱える人たちも出てきます。自分も以前からグローバリズムに対してのローカリゼーションの重要さを感じていました。今回のパンデミックで、広がらずにいる小さなコミュニティの良さも再確認したように思います。遠くを見て蜃気楼のような世界に憧れを持つのではなく、自分が地に足を付けている足元の世界の大切さです。このところ聴いているのは60年代~70年代前半のフォークソングや、それに影響を受けた現代の人たちです。特にJoni Mitchell Archives–vol.1: Early Years (1963-1967)が最高です!

    Q-3. 奈良さんが現在、未来のどれを重視していますか?昨年奈良さんが難民問題について関心を持ち、イベントにも参加した、グレタ・トゥンベリさんの絵を描いたことがあるような気がしますが、グレタ・トゥンベリさんの行動に対して、そして地球環境問題についてどのように考えていますか?

    A. 彼女の行動は、大なり小なりに環境問題を考える人々に行動する力と可能性を与えてくれたと思います。彼女の主張することに賛同しますが、それ以上に、信念を持って小さな場所から行動を起こし、それが世界中に広まっていくことに感動します。

    Q-4. 現代社会はエコやサステナビリティへの意識が高まるので、奈良さんはそのテーマに関する作品がありますか?また、日々の暮らしにエコに関わる意識や行動があれば具体的に教えていただけますか?

    A. この春にステラ・マッカートニーとコラボしたものが発売されます。今までいろいろなファッションデザイナーからコラボ依頼がありましたが、興味を持てませんでした。正確に言えば、ファッションそのものではなく、そのデザイナーが社会や暮らしに対してどのような考えを持っているかが自分にとっては重要でした。その点でステラは、ひとりの人として強い意志を持ち、商品や生活の中に反映させていると感じました。

    Q-5. 昔奈良さんがおっしゃいましたように東日本大震災に自分の制作にとって非常に大きな影響を受けました。その影響が現在でも続いていますか?そして、新型コロナが奈良さんへ与える影響について、震災の時には共通点がありますか?

    A. 震災は自分の感情を揺らし、個人的な自分や場所の歴史に興味を持たせてくれました。新型コロナは、自分という個の感情ではなく、冷静に人類史や美術史を俯瞰するように見ることに始まり、社会の在り方を考えさせてくれています。

    Q-6. 奈良さんの本によって最初美大を受験するつもりなかったが、ある日たまたま「裸婦デッサン」の講習コースを受けたわけで、結局芸術の世界に入りました。
    この話は冗談みたいと思いますが、講習コースを受ける理由は本当に裸の女の子を見たいだけですか?もしデッサンのコースは普通の静物とかそれも受け入れるでしょうか?
    今までまたそのような偶然や急展開のことがありましたか?

    A. (笑)自分は子供の頃から他の子よりも絵が上手かったと思います。絵で説明することや、単純に形を正確に写したりすることができました。かと言って、絵を描くことだけが好きだったわけではありません。読書も好きだったし、野山を駆け回って遊ぶのも好きでした。高校で大学進学を考え始めた時、嫌いな「受験勉強」をするよりも、生まれつき人よりは上手かった絵で入れる大学のほうが楽に合格できると思ったのです。つまり、モラトリアム的な大学生活がしたかっただけで、合理的に一番簡単な方法が美大受験だったのです。

    Q-7. レコードジャケットから美術を学んだという連載がありましたね。展示会で奈良さんのレコードコレクションも観たことがあります。レコードを選び時、特定な目標を持ちますか?例えば誰のレコードを必ず買うとか。奈良さんにとって特別なレコードがあれば教えてください。今どのぐらい持ちますか?その中に面白い話がありますか?
    レコードだけじゃなくて、例えば美術品や他のコレクションを持っていますか?

    A. 自分の本棚には画集よりも写真集がたくさんあります。特にドキュメンタリーが多いです。スタジオやモデルを使って作られたものではなく、その場のリアリティのある写真が好きです。

    Q-8. 時々オーディエンスは背中にナイフを隠している女の子の個性を見られるし、女の子の巨大な頭部についている大きな瞳のバランスも認識しています。作品の主人公たちがそれぞれ鮮明な個性を持っていて、それは普段周りの人のことを深く見ることからですか。もしくは本とかストーリーから生まれたインスピレーションですか?

    A. 自然に出てきました。

    Q-9. 子供をモチーフにした絵が作品の中にとても重要なテーマです。時間が過ぎて、年になって、奈良さんの絵の中にいる子供たちもとともに変わるでしょうか?例えば見た目、そして世界に対して考え方が異なりますか?

    A. 自分が変わっていくように、絵の描かれる者たちも変わっていくと思います。

    Q-10. イーワン先生がLACMAのレクチャーで多く人が奈良美智の大きな頭の女の子は誰だと聞きたいですが、女の子の身元より大切なのは女の子は何が欲しいと言いまいした。私もイーワン先生の視点を認めます。
    自画像だと言いました。では、女の子が欲しいのは何ですか?教えていただけませんか?

    A. なんでしょう?笑
    わかったら絵を描くのもつまらなくなる気がします。

    Q-11. 最近の絵をみると重なる色がどんどん増えたけど、静かな雰囲気をあふれていると思います。作品完成まで色を作るプロセスと色面構成の描き方を教えてください。

    A. 昔からある伝統的な描き方です。回り道をするのが好きになりました。いろんなものを見せてくれるからです。

    Q-12. 他のインタービューでドイツにいた生活は最初ドイツ語が不自由なので、青森で過ごした少年時代のように疎外感を感じました。その時やはり寂しいですか?普段寂しい時の対処法を教えてください。その寂しさといえば、どの曲を思い浮かべていますか?ドイツに12年間一番忘れられないことは何ですか?

    A. 寂しい時は読書したり、絵を描いたり、音楽を聴いたり、なんでもない風景を眺めたりします。孤独は感受性や思考力をとても強くさせるので、一人でいることは好きです。子供の頃は、傍から見るようにひとりぼっちだったわけではなく、自分の感受性を楽しんでいました。

    Q-13. 落ち込んだ時、立ち直せる曲かありますか?また、一番気に入っていた曲を教えてください。

    A. いっぱいあって・・・

    Q-14. 昔の画家はよく一枚のキャンパスを重ねて描きますが、奈良さんもそうしますか?また、封筒や板などの上に描いた絵もよくありますね。例えばあるオークションに出た落書きした香港の紙幣、Instagramに自分が描いたお酒のラベルを投稿したこともありました。今まで自分もビックリするほどおかしいなもので絵を描く経験を持ちますか?

    A. 誰でも経験があると思うけど、子供の頃は曇った窓ガラスに指で絵や文字を描くのが好きでした。

    Q-15. 奈良さんの作品はいつもオークションで高騰していますが、それを聞いたらどう思いますか?

    A. どんなに高くても自分には一銭も入らないんだね!と、もうひとりの自分が笑います。

    Q-16. N's Yardは奈良さんご自身の作品だけでなく、コレクション作品展示もあり、美術館として、とても素敵な空間です。自分にとって、N's YARDはどんな存在ですか?また、N's YARD作り始めてから完成まで、印象に残った出来事は何ですか?

    A. まだ始めたばかりで冷静に考えられません。

    Q-17. 奈良さんが描いた女の子の髪型と髪色は特別な意味を持ちますか?それは感情の象徴ともいえますか?その女の子のスタイルやファッションに関する発想どこからから産まれたのですか?ワンピースのスタイルや髪型など、周りの女の子を参考にしますか?

    A. 参考にすることが稀にだけどあります。だいたいは頭に浮かんだ形を描いていて、描き始めるといろんなバリエーションも浮かんできます。

    Q-18. 過去の展示会では展示された写真作品も鑑賞しました。これからもっと写真作品を作り続けていますか?日本北海道に開催予定の写真展について詳細を教えてください。

    A. 後で↓

    Q-19. 奈良さんはよくレクチャーで旅のスライドショーをしますね。旅中一番興味を惹かれるのは何でしょうか?
    撮影した写真は絵の制作にどんな刺激や影響が与えますか?

    A. 自分の瞳に映ったもの、脳裏に刻み込まれたものを共有したいのだと思います。自分の撮った写真を見直していると、自分の感性が「まだまだ大丈夫!」なのか「ちょっとリラックスしてゆっくり周りを見渡そうよ」とか、自己診断させてくれます。

    Q-20. 台湾に来ること自身のツイッターで発表しましたね。この度どんな予定を立てていますか?台湾の好きな食べ物や場所は何ですか?もしやりたいことリストがあれば教えてください。

    A. 今回は純粋に展示作業のためにだけ滞在します。コロナが収まった頃には、再訪して南の方をゆっくり旅したいと思います。山の中にある小さな部落を訪ねて回りたいです。

    Q-21. 何度も台湾に訪ねていることを存じております。台湾のことをどう思いますか?台湾という国を表現するとしたらどんな言葉が思い浮かべますか?

    A. 台湾は歴史的に大きな国と国とのボーダーにありました。それは日本の北に位置するサハリンも同じです。元々はどこにも属さない、古くからそこに住む人々たちの場所でした。それは大きな力に翻弄されていく歴史は、中央に対しての地方の歴史でもあります。自分が生まれ育った本州の北の果てにある故郷も日本の中でそのような位置にありました。しかし、自分が地方に育ったことは大きな宝となっています。その場所は、結果的に文化的に耕されましたが、小さなコミュニティでの可能性を再検討するモデルにもなると思います。今回の世界的なパンデミックの中、台湾が出した成果は素晴らしいものでした。広大な国、人口の多い国、軍備の国、いろいろな大きな国々が台湾のようには行動できませんでした。

    Q-22. ツイッターで蔡総統とお互いにリプライを送ったことまた注目されました⋯⋯。SNSで興味を持っている人物やテーマはあるでしょうか?また、SNSを使ってただ人と繋がって楽しんですか、あるいは自分の力で何良い影響を与えたいのですか?

    A. 蔡総統とコミュニケーションできたことには驚きました。SNSの面白いところです。SNSに限らずネットでは、興味ある事柄にすぐにアクセスできます。しかし、それを多用していると、遠回りして初めて見えてくる風景に出会えなくなることにもなります。難しいですね!

    Q-23. 新型コロナの影響で自由に旅が出来なくなってしまったいまこそ、他の趣味を見つけましたか?自粛生活の中で、自分の新しい面を発見した人もいますね。奈良さんの場合はどうですか?

    A. 残念ながら、まわりに家の少ないところに住んでいるので、ほとんど生活自体に変化はないです。

    Q-24. ネットで奈良さんの絵にタトゥーのデザインとして許可を得るファンがいますか?それについてどんな感じですか?

    A. いっぱいいます。全然かまいません。

    Q-25. 先日SNSで、段ボール製の山子と旅した記録を投稿しましたよね。山子のことを知りたいのですが、また「旅する山子」シリーズを作るきっかけについて聞かせてください。

    A. 毎年夏に北海道に1ヶ月滞在しています。滞在後に車に荷物を詰めて北海道内を旅行するのですが、段ボールで作った山子も積んでいて、たまたま泊まったとこの人たちに見せようと車から出して、ゲストハウスのリビングに置きました。その時に写真を撮ったのですが、その感じが面白くて、行く先々で気が向くと写真を撮るようになって、家に戻ってから画像を見ていたら、とてもいい!と思えたんです。

    Q-26. 次のプロジェクトについて教えていただけませんか?

    A. 5月上旬あたりに北海道の札幌と小樽にある、カフェ、靴屋、花屋、雑貨屋、本屋など計13店舗を使って写真展をします。行政の力を借りるのではなく、みんなでDIY精神で開催する予定です。2月中に「旅する山子」のポストカードセットを販売して運営資金にします。デザインや流通も自分たちでやります。この企画は3年ほど前からアイディアはありましたが、ここ1年で急に現実味を持って動き出しました。自分はゴールを決めて急ぐことはしたくありません。こうして自然に始まる(しかも自分たちの力で!)のが好きなんです。

    Q-27. 今年はVOGUE TAIWAN 25周年なので、もし25歳の自分に出会ったら、何と声をかけますか?

    A. 制作ばっかりしてないで、もっと遊べ!今しかできないのは制作だけではない!旅に出ろ!真剣に恋をしろ!・・・かな。